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トム・ロブ・スミス『チャイルド44』上下(新潮文庫) [読書感想]

トム・ロブ・スミス『チャイルド44』上下(新潮文庫)
スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた……。(新潮社:http://www.shinchosha.co.jp/book/216931/?select=pop)

面白かった!海外ものに抵抗ない人には是非読んで欲しい。粗はあるけど傑作!

08年度CWA最優秀スパイ・冒険・スリラー賞を受賞作。ロシアでは発禁本になったとか…わからないでもない。ソ連で実際あった事件(80年代の事件だそうです)をベースに年代を50年代のスターリン体制下に置き換えた小説。社会主義国家体制の元、建前として「犯罪」はない、とする国家。主人公のレオもその国の建前を信じている人物。そんなレオが部下に陥れられ、現実を突きつけられていく。左遷させられた先で、子供たちが次々と殺されていっている連続殺人事件の存在を知ったレオは犯人を追おうとするが、事件を追うこと自体が国家反逆になる社会のなか彼自身が国家保安省に追われることになる。

監視体制下にある人々がどういうメンテリティになるのか、また極限下のなか人として生き延びるということがどういうものか、という部分が書き込まれているので普通の大量殺人ものとは違う重さがありました。

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)




チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

  • 作者: トム・ロブ スミス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/08/28
  • メディア: 文庫



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D・M・ディヴァイン『悪魔はすぐそこに』(創元推理文庫) [読書感想]

D・M・ディヴァイン『悪魔はすぐそこに』(創元推理文庫)
ハードゲート大学の数学講師ピーターは、横領容疑で免職の危機にある亡父の友人ハクストンに助力を乞われた。だが審問の場でハクストンは、教授たちに脅迫めいた言葉を吐いたのち変死する。次いで図書館で殺人が起き、名誉学長暗殺を仄めかす手紙が舞い込む。相次ぐ事件は、ピーターの父を死に追いやった8年前の醜聞が原因なのか。(東京創元社:http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3754)

『ウォリス家の殺人』(感想)が面白かったのでこちらを手に取ってみました。1966年の作品ですが『ウォリス家の殺人』同様にやはり古さを感じさせない作風です。今現在の作品と言われても納得しそう。本格ミステリとしてかなり技巧を凝らしているのですが、その凝らし方が自然です。ストーリーの組み立て方が上手いんでしょうね。さすがに「えええっ、この人が犯人?」という驚きはないものの、すっかり騙されました。大学が舞台で教授や職員たちの生態が描かれているのですがこれがいちいちキャラ立ちしてて楽しいかったです。映像化したら面白そうだな。

悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)

悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)




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フランク・ティリエ『七匹の蛾が鳴く』(ランダムハウス講談社文庫) [読書感想]

フランク・ティリエ『七匹の蛾が鳴く』(ランダムハウス講談社文庫)
全身の毛を剃られた死体 髑髏模様の蛾 無数の蛆虫を埋め込まれた身体 度重なる悲劇と凄惨な猟奇殺人の捜査。 警視シャルコの精神は崩壊の危機にあった――

猟奇殺人の様相が凄まじい…酷すぎる、気持ち悪い、読んでてゲッソリすること請け合い。悲惨すぎる。虫が嫌いな人は読んじゃダメかも。主人公自体が精神崩壊の危機にあるのですから、物語そのものがどこか異様です。ほとんどホラーじみたストーリーですがホラーじゃないです。きちんとミステリとして落としているところが見事です。歪んだ物語が好きな人にオススメ。読む人を選ぶでしょうが好きな人は好きだと思う。面白かったです。

七匹の蛾が鳴く (ランダムハウス講談社文庫)

七匹の蛾が鳴く (ランダムハウス講談社文庫)




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ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(ハヤカワHM文庫) [読書感想]

ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(ハヤカワHM文庫)
警官を志望する若きキャシーがマージョリーと出会ったとき、彼女の胸にはステーキナイフが深々と突き刺さっていた。何者かが彼女を刺し、レイプしたのだ。怯え、傷ついた彼女を慰めるキャシー。だが捜査を担当したロビロ刑事は、事件を彼女の自作自演と断じる。マージョリーに友情めいた気持ちを抱いていたキャシーだったが、どうすることも出来なかった。それから六年後、キャシーとマージョリー、そしてロビロの運命が再び交わるまでは……MWA賞最優秀短篇賞受賞の「傷痕」をはじめ、男性社会の警察社会で生きる女性たちを描く十篇を収録(早川書房:http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211783.html)

アメリカの女性警官たちを主人公にした短編集。作者が元女性警察官ということもあるのでしょう、かなりリアルな肌合い。いわゆるミステリ小説ではありません。普通小説に近いかも。女性警官たちの仕事と日常を丹念に鋭く描きだします。死や暴力に向き合い神経をすり減らしながら生きて行く彼女たちの物語は読んでいてとてもしんどいです。でも目を背けてはいけないという思いにも駆られ、これが現実という重いものが残った読書でした。

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)




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恩田陸『蒲公英草紙--常野物語』(集英社文庫) [読書感想]

恩田陸『蒲公英草紙--常野物語』(集英社文庫)
舞台は20世紀初頭の東北の農村。旧家のお嬢様の話し相手を務める少女・峰子の視点から語られる、不思議な一族の運命。時を超えて人々はめぐり合い、約束は果たされる。切なさと懐かしさが交錯する感動長編

久々に、恩田陸で満足した。ここ最近、話の終息の仕方に物足りなさを感じていたのだけど、『蒲公英草紙』にはそれを感じなかった。『光の帝国』の常野一族の物語の第2弾。

相変わらず、恩田陸らしい少女マンガテイストな美しい人たちの美しい物語。続けざまに恩田さんの作品を読んでいると時にそれが鼻につくこともあるのだけど、常野物語に関してはキャラクターたちの浮世離れしたその美しさが必然と思える。草紙というタイトルがピッタリの美しく切ない「物語」。仏師、円空のエピソードにインスパイアされて描いた作品のようだ。救いとは何か。

恩田さんには珍しくメッセージ性が強い物語だった。時代の急激な変化へに飲まれ、美しい精神性が犯されていく恐れ、そんなものも描いている。物語の時代は明治だけど、今の時代へのメッセージとも受け取れる。

蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)

蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)



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江戸川乱歩『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(角川ホラー文庫) [読書感想]

江戸川乱歩『人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1)』(角川ホラー文庫)
貧しい椅子職人は、世にも醜い容貌のせいで、常に孤独だった。惨めな日々の中で思いつめた男は、納品前の大きな肘掛け椅子の中に身を潜める。その椅子は、若く美しい夫人の住む立派な屋敷に運び込まれ・・・・・・。椅子の皮一枚を隔てた、女体の感触に溺れる男の偏執的な愛を描く標題作ほか、乱歩自身が代表作と認める怪奇浪漫文学の名品「押絵と旅する男」など、傑作中の傑作を収録するベストセレクション第1弾!

乱歩フォーラムの時に北村薫さんがお気に入りの1編として取り上げていた「鏡地獄」が入っていたので手に取りました。乱歩は学生時代にポツポツと読んでいたのだけど、その当時は海外ものが好きで乱歩はあまりツボに入らなかった記憶がある。で、今回改めて読んだら…思いっきりツボ。あれ?こんなに私好みだったっけ?しかもこのセレクション8編すべて読んだものばかりだよ。ほとんど読んだことないと思っていたら、読み始めたら知ってるのばっかり。そういう意味では当時個人的にツボではなかったにしろ、覚えているだけのインパクトはあったってことか。さすがに「人間椅子」は代表作の一つなので覚えてましたけど他の作品なんてタイトルはまったく覚えてなかった…。たまたまこのセレクションが私好みなのかもしれない。ほとんどが幻想・怪奇系だし。乱歩の短編は読み直さないといけないかも。

収録作品:「人間椅子」「目羅博士の不思議な犯罪」「断崖」「妻に失恋した男」「お勢登場」「二廃人」「鏡地獄」「押絵と旅する男」

人間椅子  江戸川乱歩ベストセレクション(1) (角川ホラー文庫)

人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1) (角川ホラー文庫)



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江戸川乱歩『人間豹』(創元推理文庫) [読書感想]

江戸川乱歩『人間豹』(創元推理文庫)
燐光を放つ双眸炯炯と、野獣の膂力を持つ人間豹。人と豹のあわいに生まれ落ちたか、千古に解き難き謎を秘めた怪物は、帷幄の臣たる父親と戮力協心、神算鬼謀をもって帝都市民の心胆を寒からしめる。さしもの名探偵明智小五郎も一敗地に塗れ、不逞の輩はあろうことか明智夫人に毒手を伸ばす。文代さん危うし!(創元社:http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=1598)

エログロバカミスというか、エログロバカサスペンスでした(笑)。乱歩フォーラムで有栖川有栖センセがあれこれツッコミを入れていましたがこれはツッコミしたくなるわ。言い足りなさそうにしてたのもよくわかる。あれもこれも、ここも言いたかったんでしょうね、と。

いやあ、乱歩先生のフェチシズム溢れた見事な通俗小説。なんて荒唐無稽なストーリー(笑)そういや乱歩ってエロでしたねえ、グロでしたねえ。ジトーッとした体温が感じられるねちっこい文章。この小説、ツボな人にはツボ、ダメな人にはダメでしょう。

ツボな人にはこの猥雑さが好きでしょうね。ここまで徹底していれば素晴らしいですよ。生理的気持ち悪さ爆裂ですわ。毒々しいまでの色彩と映像。しかも章ごとにイチイチ無理矢理にでも盛り上げようとする展開も面白い(やら可笑しいやら?)。人間豹って人と豹の混血人。この恩田の逆恨み自己ちゅーストーカーな悪人ぶりが、外観の気持ち悪さ以上に気持ち悪い。そして輪にかけて恩田父ちゃんのマッドサイエンティストな変人ぶりが恐ろしい。なんか昔懐かしい雰囲気。いや古い作品だから当然なんですが(^^;)

しかし、乱歩先生、これ青少年向けに書いたって?まじですか?うーん、昔のほうがエロには寛大。この作品、コーネル・ウールリッチ(ウイリアム・アイリッシュ)『黒いアリバイ』にインスパイアされた作品らしいのですがこれも読んでみようかしら。



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松本幸四郎・松たか子『父と娘の往復書簡』(文藝春秋) [読書感想]

松本幸四郎・松たか子『父と娘の往復書簡』(文藝春秋)
梨園の親子であり、舞台人でもある松本幸四郎と松たか子の率直で親密な往復書簡。雑誌連載中に迎えた嫁ぐ日を巡る言葉が胸に迫る(文藝春秋:http://www.bunshun.co.jp/book_db/3/70/73/9784163707303.shtml

文藝春秋「オール読物」に掲載されていた松本幸四郎さんと松たか子さんの2年間にわたる往復書簡23通をまとめたものです。高麗屋ファンの私ですがさすがにこれは買うつもりはなかったんです。しかし「オール読物」を毎月購読している読書好きのBLOGで「ある月の幸四郎の手紙を読んだ時にこの人の文章は日本一美しいと思った」と感想を書いている人がいて、その手紙を読んでみたくなったんです。 ああ、これだと思った1通がありました。文章の美しさそのなかの情景の美しさ。幸四郎さんという人は言葉を操る職業の人ですがその言葉(台詞)たちをきちんと自分の血肉にしてきた人なんだなあと思いました。この文章を読めただけでも買った甲斐がありました。

でもそれだけじゃなく、24通の手紙の内容の濃さに、良いものを読んだなあと思いました。幸四郎さんとたか子ちゃんはとことん役者なんですよね。だから単なる父と娘の文通にはなりえないんです。内容のほとんどが芝居のことです。役者という道を選んだ二人の様々な思いがそこには書かれていました。この二人の距離感がまた楽しいです。最初の頃はなんだかお互いのやりとりがぎこちないんですよね。基本はお互い役者という立場でのやりとりですが書簡が進むにつれ少しづつそのなかに父と娘の気持ちが自然に言葉になって入ってきている。後半になるとそのお互いの思いを綴った文章にじわっときたりして。

往復書簡の2年間は二人が当初まったく予想していなかったことが次々と起こっています。この時期にこういうものを書けたことは二人にとっても幸せだったかもしれませんね。個人的に芝居に興味がない人たちにもオススメです。

父と娘の往復書簡

父と娘の往復書簡



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平野啓一郎『顔のない裸体たち』(新潮文庫) [読書感想]

平野啓一郎『顔のない裸体たち』(新潮文庫)
ごく平凡な女教師・吉田希美子は、出会い系サイトで知り合った男との行為にのめり込んでいく。男は自分たちの性行為を録画撮影して、インターネットのアダルトサイトに投稿する趣味があった。ネット上を歩き回る淫らな彼女の顔にはモザイクがかかっていて、誰にもわからないはずだった。事件が起きるまでは……。(新潮社:http://www.shinchosha.co.jp/book/426005/)

平野啓一郎は芥川賞の『日蝕』を読んで以来です。最新作『決壊』が評判良いのでなんとなく読んでみようかなと思ったんですがハードカヴァーだし高いしで躊躇。文庫落ちした『顔のない裸体たち』のほうを手に取りました。『日蝕』とはだいぶ趣きが違う作品ですねえ。文章はかなり上手くなっているかも。この作品は性描写がかなり露骨。かといってポルノ小説に陥ってないところが上手いところかもしれません。第三者の視点で淡々と描き、ルポルタージュ風な小説。題材的にいいところを拾ってきたという感じですし面白かったんですが全体的に印象が薄い。登場人物二人が内省することのないキャラクターということになっていて、それがそのままに描かれるので小説としては薄い感じになったせいかも。所詮ネット人格の薄さ、みたいな部分で意図的描いたのだったらこういうのもありかなとは思うんですがもう少し何かほしかったところです。

顔のない裸体たち (新潮文庫)

顔のない裸体たち (新潮文庫)



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ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(小学館文庫) [読書感想]

ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(小学館文庫)
奇妙な噂がささやかれる映画館で隣に座ったのは、体をのけぞらせ、ぎょろりと目を剥き、血まみれになった“あの女”だった。4年前『オズの魔法使い』上映中に19歳の少女を襲った出来事とは!?(『二十世紀の幽霊』)。そのほか、ある朝突然昆虫に変身する『蝗(いなご)の歌をきくがよい』、ダンボールでつくられた精密な要塞に迷い込む怪異を描く『自発的入院』など……。デビュー作ながら驚異の才能を見せつけて評論家の激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞の3冠を受賞した怪奇幻想短篇小説集。

16作品(序文を入れると17作品)からなるジョー・ヒルの短編集。好き、嫌いもありますし、すべてが良いとは言いませんがかなりレベルの高い短編集でした。内容はホラー、幻想、マジック・リアリズム、普通小説と言ってもいいようなものと多岐に渡っています。全体の印象を言えば『トワイライトゾーン』シリーズを見たような感覚。あらゆるジャンルを包括して、どこかずれた空気をまとう境界線の物語。いわゆる異色作家と言われた作家の流れを汲む作家と言っていいでしょう。ジョー・ヒル本人がロアルド・ダール、ジャック・フィニィの影響を受けているとあとがきに触れていますし、この短編集のなかにもオマージュ作品がいくつかあります。また幻想方面だけではなくホラーへの愛もたっぷりあります。その幅の広さがこの作家の強みかもしれません。

ジョー・ヒルはあのスティーブン・キングの息子さん。同じジャンルの小説家になるなんて色んな部分で大変でしょうね、と思いますがこの短編集に限っていえば父親に負けていませんね。物語を捉える方向性が似てるようで微妙に違います。

私が気に入った作品は映画愛に満ちた作品『20世紀の幽霊』、若年性の統合失調症で要塞作りが得意な弟モリスについて語る『自発的入院』。そしてマジック・リアリズム『ポップ・アート』の切なくも優しい物語、この作品は傑作!というか大好きです。

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

  • 作者: ジョー ヒル
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/09/05
  • メディア: 文庫


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D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫) [読書感想]

D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫)
人気作家ジョフリーの邸宅〈ガーストン館〉に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたり脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が、館の複雑な人間関係に強い緊張をもたらしていた。そして憎み合う兄弟は、暴力の痕跡を残す部屋から忽然と姿を消した。(東京創元社:http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3886)

端正な本格ミステリです。どことなく英米推理小説黄金期の雰囲気を感じたのですが、作者は1960年代から活躍している方のようなのでその流れを汲む作家なのでしょう。この作品も出版は1981年の作品。いわゆる古さは感じないのですが、でもなんとなく懐かしい感じがします。アガサあたりからの海外ミステリを読んできた人たちは絶対好みでしょう。

いわゆる本格ミステリとして綺麗に複線をちりばめロジックを追いかける部分も面白いのですがこの小説の面白さはそこだけではありません。登場人物たちの人間模様のドロドロがなかなかにすごいです。皆が一筋縄ではいかず、何がおきてもおかしくない状況。というか殺人事件のひとつやふたつ起きるだろう、というな~んかイヤな雰囲気が漂っております。語り手の主人公からして殺された人物に悪感情を抱いているわけで。事件をさぐるうえで悪感情から発する解釈を信用していいのやらな状況です(笑)でも殺された人物も大概な人物だし…。そのイヤ~な人間模様が単純な事件のはずのものに目くらましを与えます。犯人の隠し方が絶妙で、久ぶりに犯人の目安をうまくつけられませんでした…悔しい。でも後から考えたらきちんち複線を張ってあるんですけどね。でも犯人の動機がいまいち納得できないちゃ、できないんですが。強固な動機とまではいかない感じが。まあでもこの本に関してその部分、それほど傷ではないです。D・M・ディヴァインはもう少し色々読んでみたいですね。

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)



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東野圭吾『手紙』(文春文庫) [読書感想]

東野圭吾『手紙』(文春文庫)
強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。しかし、進学恋愛就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。(文藝春秋:http://www.bunshun.co.jp/book_db/7/11/01/9784167110116.shtml)

かなり話題になった作品。今更感がありますが読んでみました。この作品に関しては題材が良いと思う。犯罪者の家族の苦しみや周囲の差別意識を描いた作品。犯罪被害者の家族を描く作品は多いけど犯罪者の家族を描く作品は多くはない。なかなか書きづらいからだろう。そこをしっかり描こうという部分でこの作品は成功している。犯罪者の家族への差別意識は誰にでも持ちえる感情だ。その感情をこの作品は肯定している、しかし、それでいいのか?という感情も読者に持たせる。大きな部分でのストーリーラインがとても上手い作品と思う。素直にいい作品だ、と思う。

ただ、この作家の作品を何冊か読んできての感想なのだけど、個人的に東野圭吾のキャラクター造詣があまり好きじゃない。なんだかどれもこれも薄っぺらく感じてしまう。話を書くために無理矢理作り出したキャラという感じをどうしてもぬぐいきれない。私が東野圭吾と感性が合わないのだろうな。

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)



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恩田陸『ユージニア』(角川文庫) [読書感想]

恩田陸『ユージニア』(角川文庫)
あの夏、白い百日紅の記憶。死の使いは、静かに街を滅ぼした。旧家で起きた、大量毒殺事件。未解決となったあの事件、真相はいったいどこにあったのだろうか。数々の証言で浮かび上がる、犯人の像は--。(角川書店:http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=200711000367

恩田陸はやっぱり恩田陸だった(笑)第59回日本推理作家協会賞受賞作です。なのでつい理に落ちる結末を期待してしまいましたが、肝心な部分をはぐらかされてしまいました。うそお、ここまで物語構築しておいてそこで終わらせるの?とモヤモヤが残る読後感。それでもその曖昧さが恩田陸らしいのだと思えば、この作品においては納得いく。所詮人の気持ちは理解できない、というテーマと呼応しているし、その切なさもある。ただ、それでも物語として綺麗に昇華されているとは言えないかなあ。複線が足りない。もう少し緻密な複線があってどうにでも解釈できる余地を与えてくれたら、そのラストでも私は「傑作」と呼んだだろう。もうひとつピースが足りない。ただ面白い小説には違いない。読んでいる最中は夢中になって読んだ。微妙にずらしていく構成も面白いし、美しくどこか毒々しい情景描写や蒸し暑い夏の空気感など相変らず雰囲気創りも上手い。

ユージニア (角川文庫)

ユージニア (角川文庫)



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ロイス・マクマスター・ビジョルド『<五神教シリーズ>影の棲む城』上下(創元推理文庫) [読書感想]

ロイス・マクマスター・ビジョルド『<五神教シリーズ>影の棲む城』上下(創元推理文庫)
チャリオン国太后イスタは鬱々としていた。元国主の夫はとうに亡く、娘はチャリオンの国主となっている。では、自分は? 神の手が触れた聖者でありながら、周囲からは気がふれていると思われていたのも昔のこと。このまま故郷の城で、とらわれ人のように一生を過ごすのか。耐えられなくなったイスタは、神に祈願をする巡礼として、わずかな供と旅に出た。(東京創元社:http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3804

『チャリオンの影』の続編です。カザリルの活躍でチャリオン王家が救われてから3年、国主イセーレの母イスタは城から逃げ出したくて巡礼の旅という名目で旅に出るところから始まります。今回の主人公、イスタは前作ではどういう人物かハッキリしないままでしたが、今回は意志の強い女性として登場します。とはいえ気が強く少々捻くれもの(笑)、しかもなんだかんだ誰かしらの庇護の元にありいつも安全なのであんまり感情移入とか同情できなかったり…。

でも、周囲にいる人物がかなり魅力的なので一気に読んでしまいました。前回活躍したキャラクターたちはほとんど出てきませんが引き続きの登場は姫神の騎士フェルダとフォイのグーラ兄弟。そして新たにイスタの侍女となるリス、庶子神神官カボンにタイトルの城の住人、アリーズとその奥方カティラーラに、アリーズの異父弟イルヴァンなど。それぞれに魅力的な人物が次から次へと登場。彼らの魅力で物語を引っ張っていきます。またキーパーソンとなる庶子神のちょっと下世話な魅力がまた一興(笑)女性が皆強くて魅力的なのが基本です。私は天真爛漫なリスと旦那一途のカティラーラが好きです。

宮廷陰謀ものお得意のビジョルド節炸裂の作品。ファンタジィーとしても王道。ちょっと神の力が安易に使われている気もしますが、まあ収束させるにはあれしかなかったでしょうし。

影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫)

影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫)




影の棲む城〈下〉 (創元推理文庫)

影の棲む城〈下〉 (創元推理文庫)

  • 作者: ロイス・マクマスター ビジョルド
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 文庫



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楊逸『金魚生活』(『文學界 9月号』文藝春秋) [読書感想]

楊逸『金魚生活』(『文學界 9月号』文藝春秋)

中国国籍の第139回芥川賞受賞作家、楊逸さんの受賞後第一弾の作品です。芥川受賞作『時が滲む朝』を読まずにいきなりこの作品がお初。久々に話題の作家の作品を読んでしまいました(笑)

確か受賞作(『時が滲む朝』)やその前の候補作(『ワンちゃん』)では日本語使い方が拙いと評されていたように思いますが、確かにそういう部分はあるものの、それが独特の言い回しになっていて文章に面白味が出てるような気がしました。どことなく骨太さがあって素朴な力強さを感じます。内容は、中国人の小説だ、という強烈な印象。もうね感覚が、違うんですよ。それがすごく面白かったです。一人の中年女性を描いた小説なんですが、その閉塞感に満ちた生活の描写になんだか圧倒させられました。匂いが強烈なんですよ(笑)実際匂うわけじゃないのにね。この作家の日本人が描く小説には無い妙な濃さとか線の太さを感じさせる物語、そんなとこが評価されたのかな?なんて思いました。

金魚生活

金魚生活




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